Paul Auster


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オースター・ワールドと人はいう。では一体、それはどんな世界なのか。

オースターが日本で注目され始めたのは90年代に入ってからのことである。その前
年に、『ニューヨーク三部作』のそれぞれの翻訳があいついで刊行されたことが火付
け役となった。当時、ポストモダンという概念がはやり、論議されていたためか、研
究者、文学好きの間でオースターの名前が次第に広まっていった。
フランスとともに、むしろ本国での人気に先行したほどである。
具体的に言えば、絶対的真理があるだとか、ものみな進歩し、あるいは統一されなけ
ればいけないだとか、主体と客体という二重性、つまるところ階層秩序があるはずだ
とか、そういうことがこれまでの西洋的な考えでは大前提とされてきたが、60年代
末あたりからポストモダン(あるいはポスト構造主義)という思潮のもと、それらに
疑義がはさまれ、批判されはじめてきて、そんな姿勢がオースターの小説からも感じ
られるということである。イーハブ・ハッサンの手になる、モダニズムとポストモダ
ニズムの対照表には「意図」対「偶然」という項がある。ポストモダンの現代では、
ものごとが意図したとおり運ぶ必然性などもはやないというわけである。だが、オー
スター作品の特質は、こういった現代的な問題を幾重にもはらみながらも、幅広い一
般読者層を獲得しているところにある。その背景には、現代アメリカ小説が翻訳・評
論などをとおして近年続々と紹介され、活況を呈してきたという事情もある。特に若
い世代の中には、一部のアメリカ小説家にカルトヒーロー的な思いを抱く者も少なか
らずいるようだ。だが、オースターをこのようなブームの中にだけ位置付けることは
正しい評価とは言えない。

比較的広汎に受け入れられる理由は、おそらく読み物としての面白さをます備えてい
るのでとっついやすいし、しかも前述の現代的な諸問題にしても、押しつけがましく
迫ってくるというより、むしろ読者の想像力を心地良く刺激するような形でひそんで
いるからだろう。他の作家に比べると、稀有な現象であり、きわめてオリジナルな文
学世界を作り上げていると言わなければならない。

現実世界をワンダーランドのように見せかける要因は、独特な文体にもある。まず第
一に、そのスムーズな流れ、それがかもし出すリズムがなんとも心地良い。
と同時に、それは催眠術のようでさえあり、だんだん不思議な気分にもおそわれてい
く。文法的に見ていくならば、まず入り組んだ構文をほとんど使わず、しかも一息で
読めるぐらいの長さのところで句読点を入れてしまうこと。その際、並列に重ねてい
ったり、対句のようにすること。すると、読みやすいだけでなく、シンメトリックな
感覚、つまりは幾何学的な美しさがかもし出される。日常的な世界から不思議の世界
へと知らぬ間に入りこんでいくのはオースター小説の常道であり、それは文体による
ところ大なのである。
オースター・ワールドとはそもそも言葉の王国なのである。

──彩流社現代作家ガイド『ポール・オースター 増補版』より抜粋













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